飲食店を含む建物は、不特定多数の人が出入りする「特定用途の防火対象物」に当たります。原則として、消防法令の方法で算定した建物全体の収容人員が30人以上なら防火管理者の選任が必要です。30人は店の客席数だけを指すものではありません。テナント単独では30人未満でも建物全体が基準に達していれば、建物所有者と各テナントで防火管理者を選任します。
ただし、選任義務の有無と、選任する人に甲種・乙種のどちらの資格が必要かは同じ判定ではありません。建物全体の用途・収容人員に加え、建物の規模やテナント部分の収容人員も確認します。管理会社から建物情報を受け取り、店舗図面と営業内容を管轄消防署へ示して、入居・工事の前に判定してもらうのが安全です。
一般的な飲食店では調理師免許は開業要件ではありませんが、施設ごとの食品衛生責任者の設置と管轄保健所による飲食店営業許可は原則として必要です。防火管理者を含め、誰がどの資格を取得し、いつ届け出るかまで確かめることが開業準備の条件になります。
防火管理者の制度情報は2026年9月23日、その他の制度情報は2026年7月24日に確認しています。自治体の条例、物件の用途・規模、提供する商品や営業時間によって手続きが変わるため、契約や工事の前に管轄窓口へ確認してください。
「飲食店 開業 資格」で押さえるもの
資格と許可は別です。人にひもづく食品衛生責任者・防火管理者と、施設で営業するための飲食店営業許可を分けると、準備漏れを見つけやすくなります。
| 項目 | 原則的な要否 | 確認先 | 判断の要点 |
|---|---|---|---|
| 調理師免許 | 一般的な飲食店開業では必須ではない | 保健所 | 調理師は食品衛生責任者になれる資格の一つ |
| 食品衛生責任者 | 原則として必要 | 保健所、自治体が認める講習実施機関 | 施設ごとに有資格者を定める |
| 飲食店営業許可 | 店内で食品を調理・提供する一般的な営業で必要 | 店舗所在地を管轄する保健所 | 図面・設備が施設基準を満たすか |
| 防火管理者 | 建物の用途・収容人員などにより必要 | 管轄消防署 | 飲食店を含む建物全体の収容人員30人以上が基準の一つ |
| 酒類販売業免許 | 店内提供のみなら不要。店外で飲用される酒類の販売では必要 | 所轄税務署 | 販売場ごとに免許を受ける必要があるか |
判定軸は、人、施設、建物、営業内容の四つです。「資格を一つ取れば開業できる」とは限りません。
食品衛生責任者は原則として施設ごとに置く
厚生労働省の通知では、営業者は施設の衛生管理の中心となる食品衛生責任者を定めることとされています。大阪府の案内でも、原則として許可や届出の対象となるすべての施設に、HACCPに沿った衛生管理と食品衛生責任者の設置が必要とされています。
食品衛生責任者になれるのは、主に次のいずれかに該当する人です。
- 調理師、製菓衛生師、栄養士、管理栄養士など、所定の資格を持つ人
- 食品衛生監視員・食品衛生管理者の資格要件を満たす人
- 都道府県知事等が行う、または適正と認める食品衛生責任者養成講習会を修了した人
所定の資格を持つ人がいない場合は、養成講習会を修了した人を食品衛生責任者に選べます。厚生労働省が示す標準プログラムは、食品衛生学2.5時間、食品衛生法3時間、公衆衛生学0.5時間と確認試験を合わせた計6時間程度です。申込方法、日程、受講料は実施機関によって異なります。他地域の修了証明書を使う場合も、店舗所在地の保健所に資格要件の確認方法を聞いておくと手戻りを防げます。
名義だけでは足りません。食品衛生責任者は衛生管理に当たり、必要に応じて営業者へ意見を述べ、営業許可業種では実務講習会を定期的に受講して新しい知見の習得に努めるため、開業後に現場へ関与できる人を選ぶのが妥当です。
なお、「食品衛生管理者」は食品衛生責任者とは別の制度です。厚生労働省によると、食品衛生管理者は食肉製品や一定の添加物など、特に衛生上の考慮を要する食品の製造・加工施設で必要となります。通常の飲食店を開くための食品衛生責任者と混同しないようにしましょう。
飲食店営業許可は資格とは別に必要
食品衛生責任者の要件を満たしても、それだけで営業は始められません。厚生労働省は、公衆衛生への影響が大きい業種を営業許可の対象とし、飲食店営業を許可業種に位置づけています。営業許可申請は国の食品衛生申請等システムでも行えますが、業種の選択や申請内容の問い合わせ先は保健所です。
物件を借り、厨房工事を終えた後で設備不足が判明すれば、工程や資金計画を組み直すことになります。工事後では遅いのです。「同じ場所で以前も飲食店を営業していた」ことを根拠にせず、業態、調理工程、製造や販売の範囲を伝え、平面図を持って工事前に保健所へ相談すると、設備の手戻りを抑えやすくなります。
惣菜や菓子の製造、卸売、キッチンカーなどを組み合わせる場合は、飲食店営業とは別の許可区分や取扱いが関係する可能性があります。メニュー名だけでなく、「どこで作り、どの状態で、誰に、どこで渡すか」を整理して相談すると、必要な許可を判定しやすくなります。
防火管理者は客席数だけで決めない
東京消防庁の案内では、飲食店など不特定多数の人が出入りする用途を含む防火対象物のうち、防火対象物全体の収容人員が30人以上の場合、防火管理者が必要です。対象となる建物では、建物所有者だけでなく、すべてのテナントで選任が必要とされています。
飲食店で防火管理者が必要かを3段階で確認する
| 確認する順番 | 確認する情報 | 判断の目安 | 次にすること |
|---|---|---|---|
| 1. 建物の用途 | 飲食店のほか、物販店、ホテル、病院など不特定多数が利用する用途を含むか | 飲食店を含む建物は原則として特定用途。避難が難しい人が入所する一定の福祉施設を含む場合は、10人以上が基準になることがある | 管理会社または所有者に消防法上の用途を確認する |
| 2. 建物全体の収容人員 | 消防法令の算定方法による建物全体の人数 | 特定用途を含む建物で30人以上なら、原則として建物所有者と各テナントに選任義務がある | 建物全体の算定資料と既存の消防計画を受け取る |
| 3. 必要な資格区分 | 建物の用途・規模と、テナント部分の収容人員 | 甲種はすべての防火対象物で選任可能。乙種を選任できる範囲には面積・収容人員の制限がある | 店舗図面と営業内容を管轄消防署へ示し、甲種・乙種を確認する |
客席が20席でも、消防法令上の収容人員が30人になる例
飲食店の収容人員は、予約台帳の上限や客席数だけではありません。東京消防庁が公開する消防法施行規則第1条の3の算定要領では、一般的な飲食店は次の人数を合算します。
- 従業者の数
- 固定式のいす席の数(長いすは正面幅を0.5メートルで割り、1未満を切り捨てる)
- 固定式のいす席を設けていない、可動式いす席や立席スペースなどの客席部分の床面積を3平方メートルで割った数
例えば、従業者5人、固定式のいす20席、可動式いす席や立席スペースなど固定席以外の客席部分15平方メートルの店は、5人 + 20人 + 15平方メートル ÷ 3平方メートル = 30人です。固定席が20席でも、算定上は30人に達します。
ただし、これは飲食店部分の算定例です。防火管理者の選任義務は、その人数だけでなく、同じ建物にある他の用途部分も含む建物全体の収容人員で判定します。固定席の範囲や床面積の拾い方を自己判断せず、従業者数と客席レイアウトを書き込んだ図面を管理会社・管轄消防署へ示して確認してください。
客席数だけでは決まりません。収容人員は用途ごとに消防法令で算定方法が定められており、従業員、客席、立見部分などの扱いが分かれます。客席の少ない店でも、複合ビル全体では30人の基準に達することがあります。自己判断で店内の定員だけを数えず、管理会社や建物所有者から次の資料を受け取って管轄消防署へ照会してください。
- 建物全体の用途、階数、延べ面積、収容人員の算定資料
- テナント部分の床面積、従業員数、客席と立見部分が分かる図面
- 既存の消防計画と、建物全体を管理する防火管理者・統括防火管理者の有無
防火管理者は、管理的または監督的な地位にあり、防火管理業務を適切に行える人から選任します。建物の用途や規模に応じて甲種・乙種が分かれ、東京消防庁の案内では講習期間は甲種が2日、乙種が1日です。どちらで足りるか、講習をどこで受けられるかは、出店地の消防機関へ確認します。
選任義務があると分かったら、入居前までに資格者を確保できるよう講習日程を確認します。選任後は防火管理者の選任届と消防計画を管轄消防署へ提出し、建物全体の計画とテナントの計画を整合させます。届出期限や必要書類は地域・工事内容で異なるため、東京消防庁のテナント入居手続き(新しいタブで開きます)の流れを参考にしつつ、出店地の消防署へ確認してください。
防火管理者の選任対象外と確認された店舗にも、火を使用する設備、消防用設備、内装、避難経路、使用開始に伴う届出などの確認は残ります。図面と業態を消防署へ示し、資格の要否と開業前の手続きを一緒に確かめてください。
酒類の扱いで追加確認が必要になる
店内で飲用される酒類を提供する場合、国税庁は酒類販売業免許を不要としています。テイクアウトや物販など、営業場以外で飲用される酒類を販売する場合は、販売場ごとに所轄税務署長から販売業免許を受ける必要があります。販売場ごとに、酒類販売管理研修を受講した従事者の中から酒類販売管理者を選任することも必要です。
店内提供と物販は別です。同じ瓶を扱っていても、持ち帰り販売では手続きが変わります。深夜の酒類提供や接待を伴う営業なども別の規制が関係し得るため、営業時間と接客方法を決めた段階で、警察署を含む管轄窓口へ確認してください。
契約・工事前に確認するチェックリスト
- メニュー、調理工程、提供・販売方法を一枚に整理した
- 食品衛生責任者にする人と、その資格証明または講習予定を確認した
- 物件契約・厨房工事の前に、図面を持って保健所へ相談した
- 飲食店営業以外の許可が必要な製造・販売を行わないか確認した
- 建物全体の用途・収容人員を管理会社または所有者に確認した
- 防火管理者の要否と甲種・乙種の区分を消防署へ確認した
- 消防設備、内装、避難経路、使用開始時の届出も消防署へ相談した
- 酒類の店内提供、持ち帰り販売、営業時間、接客方法を切り分けた
- 各申請・講習・検査の日程を開業予定日から逆算した
チェックが埋まらないときは、資格の有無に加えて、営業条件がどこまで固まっているかを見直します。日本政策金融公庫も創業計画の作成支援情報を公開しています。資格や許可の取得費用、工事への反映、申請日程を創業計画に入れ、資金と工程を同時に更新しましょう。融資や許可の結果が保証されるものではありません。
資格取得より先に、店の条件を管轄窓口へ伝える
飲食店開業では、原則として食品衛生責任者を施設ごとに置き、飲食店営業許可を受けます。一般的な飲食店に調理師免許は必須とされておらず、防火管理者は飲食店を含む建物全体の収容人員などで判断します。冒頭の「誰がどの資格を取り、いつ届けるか」は、建物の情報と営業内容を管轄窓口へ伝えて初めて具体化できます。
メニューと販売方法を保健所へ、建物図面と収容人員を消防署へ、酒類の持ち帰り販売があれば税務署へ示す。その回答を得てから、担当者、講習、工事、申請の順序を開業チェックリストへ落とし込むと、準備の前後関係が明確になります。地域差があるため、最終判断は必ず店舗所在地の管轄窓口に確認してください。