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ミセビラキ

飲食店のメニュー原価を、仕入単価だけで決めていませんか

飲食店のメニュー原価は、仕入単価だけでなく可食量と盛付量まで分けて捉えます。開業前の試作を価格判断につなげる原価カードの作り方と、価格・レシピ・仕入れを見直す条件を整理します。

飲食店のメニュー原価は、食材の仕入単価を並べただけでは決まりません。開業前の試作では、購入した量、下処理後に使える可食量、一皿へ実際に盛り付ける量を分けて記録します。さらに、使えなかった部分が出た理由まで残せば、価格を維持するのか、レシピや仕入れを見直すのかを判断できます。

原価を一度計算して固定するのではなく、「何が変わったら再確認するか」を先に決めます。ただし、値上がりだけを合図にすると、仕込みや盛り付けの変化を見落とします。どの変化を価格判断につなげるべきでしょうか。

飲食店のメニュー原価は、仕入れから一皿までを分けて見る

箱や袋で届いた食材の量と、皿に載る量は同じとは限りません。皮、骨、芯などを取り除く食材では、購入した全体から廃棄部位を除いたものが可食部です。文部科学省は、廃棄率を通常の食習慣で捨てられる部分が購入形態などに占める重量割合、可食部を食品全体または購入形態から廃棄部位を除いたものと定義しています(食品成分データベース「廃棄率および可食部」(新しいタブで開きます)、2026年9月21日確認)。

この区別がない原価表では、「買った食材」と「料理に使える食材」が一つの欄に混ざります。仕入単価が変わっていなくても、下処理後に使える量が変われば、一皿をつくる条件は変わります。反対に、可食量が同じでも盛付量を変えれば、同じ仕入れから提供できる皿の考え方が変わります。

そこで、次の三段階を別々に観察します。

  • 仕入量:納品され、原価カードの対象として受け取った量
  • 可食量:通常は使わない部位を除き、調理に使える状態になった量
  • 盛付量:決めたレシピに基づき、一皿へ実際に使う量

三つを分ける目的は、精密そうな数字を増やすことではありません。差が生じた場所を特定し、仕入れ、仕込み、レシピのどこを見直すか選べるようにするためです。

試作の原価カードは「単価表」ではなく判断の履歴にする

原価カードは、メニューごとに一枚用意します。同じ食材を複数の料理で使う場合も、盛り付け方や廃棄の事情は料理ごとに異なり得るため、料理の判断と結び付く単位で残します。

原価カードの欄残す内容後で確かめること
メニュー・試作の識別料理名、試作を区別できる記載どのレシピの記録か
原材料・納入業者使用した原材料と仕入先原材料や仕入先の変更があったか
仕入量対象食材を購入した量納品条件と記録が対応しているか
可食量下処理後に使用できた量どの工程で使えない部分が出たか
盛付量一皿へ実際に使用した量レシピどおりか、変更したか
廃棄理由通常除く部位、品質、作業上の事情など、実際に確認した理由同じ理由が繰り返されていないか
対応・変更内容仕込み、盛り付け、発注などで行った対応次の試作でも続けるか
再確認のきっかけ価格、レシピ、原材料、納入業者などの変更原価と提供価格を再検討するか

「廃棄量」だけでは、原因が食材の性質なのか、納品状態なのか、仕込みの進め方なのかを振り返れません。理由と対応を対にして残すことで、次の試作で確認すべき点が決まります。理由を推測で埋めず、その日に観察できたことを書くのが原則です。

衛生管理の記録と原価カードは目的が同じではありません。ただ、記録の設計には共通する重要な考え方があります。厚生労働省が掲載する小規模な一般飲食店向けHACCP手引書は、日々の確認結果だけでなく、問題が起きた際の対処、クレームや衛生上気づいたこと、処理可能量を超えた作業などを記録するよう示しています(HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書・改訂第3版(新しいタブで開きます)、2026年9月21日確認)。

原価カードでも、正常だった結果だけでなく、通常と違ったこと、その理由、取った対応を残します。ただし、原価カードを衛生管理記録の代わりにはできません。衛生管理の計画や記録は別途整え、店舗所在地を管轄する保健所などへ必要事項を確認してください。

価格を見直す条件を先に決める

原価カードが埋まっても、見直す条件が曖昧なら記録は保管されるだけです。「原価が上がったら考える」では、誰が何を確認するのかが分かりません。変化の種類ごとに、最初に開く記録と判断を決めておきます。

起きた変化最初に確認する欄判断の分岐
仕入価格や納品条件が変わった原材料・納入業者、仕入量現行レシピと価格を維持するか、仕入先・レシピ・価格を再検討するか
可食量の変化が続いた仕入量、可食量、廃棄理由食材固有の廃棄か、納品状態や仕込みに原因があるかを確認する
同じ廃棄理由が繰り返された廃棄理由、対応・変更内容対応を標準化するか、発注・仕込み・メニューを変えるか
盛付量を変えた盛付量、レシピの識別一皿の原価と提供価格を再確認するか
メニューや原材料を変えたメニュー、原材料、仕入量、可食量、盛付量旧カードを流用せず、変更後の条件で試作し直すか
納入業者を変えた納入業者、仕入量、可食量、廃棄理由同じ食材名でも使用条件が変わっていないかを確認する

この表は、自動的に値上げを決めるものではありません。変化が起きたとき、価格だけを見るのか、レシピや作業まで戻るのかを選ぶための入口です。たとえば可食量の変化が続くなら、すぐ価格へ転嫁すると決めず、廃棄理由と過去の対応を先に照合します。一方、盛付量を意図して変えたなら、仕入単価が同じでも一皿の条件を再確認します。

HACCP手引書も、記録を定期的に振り返り、同じ問題が繰り返されるときは対応を検討すること、メニュー、原材料、納入業者、設備・器具が変わったときは衛生管理計画を見直すことを示しています(2026年9月21日確認)。原価と衛生管理を混同してはいけませんが、「反復」と「変更」を見直しの合図にする考え方は、原価カードを生きた記録にするうえでも有効です。

提供価格は一皿の原価だけで完結しない

一皿の記録が整うと、原価だけで価格を決めたくなるかもしれません。しかし、飲食店の収支には人件費や家賃なども関わります。日本政策金融公庫の「創業の手引+(飲食版)」は、業態ごとにコスト配分が異なり、原価・人件費・家賃それぞれの対売上高比率の合計が必要な水準かを検討することが重要だとしています。また、予想どおりの売上が得られない場合も想定し、売上高を低め、経費を多めに置くなど、根拠のある手堅い収支計画を求めています(創業の手引+(飲食版)(新しいタブで開きます)、2026年9月21日確認)。

したがって、原価カードは価格決定の材料ではあっても、価格決定のすべてではありません。カードで一皿の条件を確かめた後、店舗全体の費用と売上見通しへ接続します。固定費を含む売上との関係は飲食店の損益分岐点を考える方法、準備段階で必要な支出の整理は飲食店の開業資金を整理する方法も併せて確認してください。

融資の可否や希望額どおりの調達を保証するものではありません。収支計画は自店の業態と契約条件に基づいて作り、必要に応じて日本政策金融公庫などの相談窓口へ確認します。

開業前に原価カードを運用できる状態へ整える

試作が終わる前に、次の状態まで整っているか確認します。

  • メニューごとに、仕入量・可食量・盛付量を別の欄へ記録した
  • 廃棄があったとき、量だけでなく観察できた理由と対応を残した
  • レシピ、原材料、納入業者の変更を識別できるようにした
  • 廃棄理由の反復や盛付量の変更を見直し条件に含めた
  • 見直し条件に当てはまったとき、確認する欄と判断する人を決めた
  • 一皿の原価だけでなく、人件費や家賃を含む収支計画と照合する流れを決めた

埋まっていない欄があるなら、価格を急いで確定するより、次の試作で観察する項目を決めるほうが先です。仕入単価だけでは見えなかった可食量、盛付量、廃棄理由の変化が、価格を再検討する具体的な合図になります。

原価カードの役割は、唯一の正しい価格を出すことではありません。仕入れから一皿までの変化を追い、判断の根拠を残すことです。仕入量・可食量・盛付量・廃棄理由を同じカードでつなぎ、反復や変更が起きた時点で、価格、レシピ、仕入れのどこへ戻るかを選べる状態にしておきましょう。