飲食店営業許可の準備は、工事の着手前に店舗所在地を管轄する保健所へ相談するところから始まります。予定するメニューと調理工程、設備を書き込んだ平面図を見せ、必要な許可の種類と施設基準を確認したうえで、工事、申請、施設検査へ進むのが基本です。許可を受けるまで営業は始められません。
設備を一通りそろえた事実だけで、許可の判断は決まりません。検査では、手洗い器や冷蔵庫の設置に加え、食材の搬入から提供、食器の回収まで衛生的な作業を続けられる構造かが確認されます。図面相談の段階で何を決め、検査当日までにどの状態をつくればよいのでしょうか。
※制度・手続は一般的な案内です。2026年9月20日に管轄保健所への相談手順と出典を再確認しました。施設基準、手数料、申請期限、必要書類、許可証の交付方法は自治体や営業内容で異なるため、最終的には管轄保健所へ確認してください。
飲食店営業許可を取るまでの流れ
飲食店営業は、食品衛生法上の許可業種です。厚生労働省は、都道府県等が省令の基準を参酌して条例で施設基準を定める仕組みを示しています。全国で考え方は共通していても、相談先と運用の細部は店舗所在地によって変わります。
| 段階 | 事業者が用意・確認するもの | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 1. 営業内容の整理 | メニュー、調理工程、提供方法、営業時間 | 飲食店営業以外の許可や届出も必要か |
| 2. 保健所へ事前相談 | 平面図、設備表、店舗の所在地 | 契約や工事で変更しにくい箇所が基準に合うか |
| 3. 設計・工事 | 相談内容を反映した図面と仕様 | 図面変更があれば再確認したか |
| 4. 許可申請 | 申請書、施設図面、資格証明等 | 検査日と開店予定日に余裕があるか |
| 5. 施設検査 | 設置・作動確認できる設備 | 図面どおりで、清掃・衛生管理を実行できるか |
| 6. 許可証の交付 | 自治体から案内された受取書類 | 許可を受けてから営業を始める |
この順序で特に前倒ししたいのは事前相談です。物件契約や厨房機器の発注後に基準との不一致が分かると、変更できる選択肢が狭くなります。
保健所への事前相談は「図面と営業内容」をセットにする
相談用の平面図には、厨房と客席の区画、出入口、窓、便所、手洗い設備、洗浄設備、給排水、冷蔵・冷凍設備、食器・食材・清掃用具の保管場所などを記します。寸法や設備の仕様が分かる資料もあると、判断を受けやすくなります。
図面だけでは足りません。同じ広さの厨房でも、生ものを扱う店と、仕入れた食品の盛り付けや加熱だけを行う店では、必要な作業場所や設備が変わり得るからです。少なくとも次を説明できるようにします。
- 仕入れる食材と、店内で行う下処理・加熱・冷却・盛り付け
- 店内飲食、テイクアウト、仕出し、通販などの提供方法
- 1日の取扱量を踏まえた保管方法と冷蔵・冷凍設備
- 生肉、生食用食肉、ふぐなど特別な基準や手続が関係する食材
- 菓子、そうざいなど、飲食店営業とは別の製造業許可が関係し得る商品
つまり、「カフェ」「居酒屋」といった店名上の業態だけで許可範囲を決めないことが大切です。実際に何を、どこで、どの工程まで扱うかを保健所へ伝え、その営業内容に必要な許可を確認します。
居抜き物件も同様です。前の営業者の許可が、そのまま新しい営業者と新しいメニューに使えるとは限りません。設備の変更や営業者の交代を含め、契約前に扱いを確認します。
相談結果を、工事前の確認メモへ残す
保健所へ相談した後は、回答を図面と一緒に記録します。下表は「店内飲食に加え、焼き菓子の持ち帰り販売を検討するカフェ」を想定した記入例です。許可の要否を回答した例ではなく、保健所へ確認する論点を整理したものです。
| 確認すること | 持参する資料・質問 | 回答後の作業 |
|---|---|---|
| 調理と販売の範囲 | 店内で作る商品、包装の有無、販売先、保管方法を示す | 必要な許可・届出と対象外の営業内容を記録する |
| 設備と図面 | 手洗い、洗浄、保管場所を記した図面と機器仕様を見せる | 指摘を設計担当へ渡し、修正図面の版を残す |
| 申請・検査の日程 | 工事完了予定日と開店希望日を伝える | 書類の締切、検査予約、営業開始可能日の確認担当を決める |
| 未確定の変更 | メニューや設備が変わる可能性を伝える | 再相談が必要な条件と、次の確認日を残す |
回答欄は、相談前には空欄で構いません。店舗所在地、相談日、窓口、使った図面の版を添えれば、工事担当者も同じ前提を参照できます。回答を覚えている人だけに判断が集中するのを防ぐためのメモです。
許可以外の準備も整理するなら、開業チェックリストで、保健所への相談を開業準備全体の中で確認してください。消防に関する準備は別の確認が必要です。防火管理者が必要になる条件も併せて確認します。
施設検査で確認される判断基準
厚生労働省の施設基準資料(新しいタブで開きます)では、屋外や住居部分からの汚染を防げる区画、清掃しやすい床・壁・天井、適切な換気、十分な給排水、冷蔵・冷凍設備、保管設備などの共通基準が示されています。2026年7月時点の食品衛生法施行規則(新しいタブで開きます)も確認対象です。
人と食品の動きが交差しないか
入口から届いた食材、下処理中の食材、加熱後の食品、使用済み食器が無秩序に交差すると、汚染を防ぐ運用が難しくなります。施設基準は、間仕切りのほか、設備の配置や作業経路、時間を分けた使用と適切な洗浄・消毒による管理も示しています。どの方法を採るか、実際の調理工程に沿って説明できる配置にします。
洗浄設備と手洗い設備を使える状態か
食品等の洗浄には、使用目的に応じた大きさと数の設備が必要です。従業者用の手洗い設備は流水式で、洗浄・消毒装置を備え、水栓は洗った手指の再汚染を防げる構造が求められます。「シンクは必ず何槽」と全国一律に決めつけず、扱う食品、食器洗浄の方法、自治体の条例を図面相談で照合します。
清掃、温度管理、保管を継続できるか
床・壁・天井や機器は清掃しやすく、排水は逆流などで食品を汚染しない構造が必要です。冷蔵・冷凍・加熱等の設備には温度計を備えます。食材は特性に応じた温度で汚染を防いで保管し、洗剤や殺菌剤は食品と分けます。廃棄物の量に合い、汚液や臭いが漏れず清掃しやすい容器と、清掃用具の保管場所も、開店後の運用まで考えて決めます。
設備名が図面上にそろっていても、扉を開けられない、清掃用具を置けない、手洗い器の前が荷物で塞がるといった状態では衛生管理が続きません。機器の使用時と清掃時に必要な空間まで確かめます。
申請書類と申請時期を確認する
食品衛生法施行規則第67条では、申請者・施設・営業の情報、食品衛生責任者の情報、施設の構造と設備を示す図面などを申請事項としています。水道事業等が供給する水以外の飲用に適する水を使う場合は、水質検査結果を証する書類の写しも図面と併せて必要です。
実際の提出物は、管轄保健所の案内で確定します。一般に確認したいものは次のとおりです。
- 営業許可申請書
- 施設の構造・設備を示す図面
- 食品衛生責任者の資格を証明するもの
- 該当する場合の水質検査成績書
- 法人で申請する場合に指定された法人関係書類
- 申請手数料と納付方法
食品衛生責任者は施設ごとに置く必要があります。資格者がいない場合は、自治体が案内する養成講習会の受講方法と、申請時点での扱いを早めに確認します。食品衛生「管理者」とは対象施設や資格要件が異なるため、名称を混同しないようにしましょう。
厚生労働省の食品衛生申請等システム(新しいタブで開きます)からオンライン申請もできます。システムが扱うのは申請・届出であり、施設検査を含む許可手続の進め方は管轄保健所への確認が必要です。申請前の相談方法、手数料の納付、検査日程は管轄保健所の指示に従います。
食品衛生以外の準備と申請日程は、飲食店開業の手順にも並べて整理できます。申請の締切や許可証交付までの日数は地域ごとに確認します。たとえば新宿区の案内(2026年4月1日更新)(新しいタブで開きます)は、工事完成予定日の10日くらい前を申請の目途とし、基準適合確認後の交付まで約1週間(5開庁日)としています。これは新宿区の例であり、別地域の開店日をこの日数だけで組んではいけません。
検査当日のチェックリスト
検査日は、できる限り営業者本人が立ち会い、図面と相談内容を説明できるようにします。工事と設備の設置を終え、給排水や各機器の作動まで確認できる状態が基本です。
- 申請した図面と実際の区画・設備配置が一致している
- 給水、排水、給湯、換気、照明を作動確認できる
- 手洗い設備を使用でき、洗浄剤・消毒設備を備えている
- 冷蔵・冷凍設備が稼働し、温度計を確認できる
- 食品、食器、薬剤、清掃用具の保管場所が分かれている
- 便所、廃棄物容器、防虫・防そ設備を確認できる
- 資格関係の書類など、保健所から個別に指示された準備がある
- 図面相談後に変えた箇所を説明できる
このチェックの目的は、現地で施設基準との適合を確認できる状態に整えることです。合否は現地の状況を踏まえて管轄保健所が判断します。不適合箇所があれば、その指示に沿って改善し、必要に応じて再検査を受けます。許可証の交付日は検査後になる場合があります。許可前提の食材仕入れや告知日程は避け、営業を開始できる日と交付予定を管轄保健所へ確認してください。
許可後もHACCPに沿った衛生管理が必要
営業許可を受けた後も、施設の維持管理と日々の衛生管理が続きます。厚生労働省は、原則としてすべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理を求めています。小規模な飲食店などは、業界団体が作成し厚生労働省が確認した手引書を利用して、衛生管理計画の作成、従業員への周知、実施状況の記録、定期的な見直しを行えます。制度と手引書は厚生労働省のHACCP情報(新しいタブで開きます)から確認できます。
検査当日の判断を安定させる条件は、契約・工事前に「何をどう調理して提供する店か」を図面に落とし込み、管轄保健所の回答を設計へ反映することです。申請期限と営業を開始できる日から逆算し、検査時には図面どおりの設備が実際に動き、衛生管理を続けられる状態まで整えておきましょう。